昨日見た夜明けのバガンを超える景色は、もう今回の滞在期間中は絶対見れないだろう。
そう思ってしまうぐらい美しい景色だったし、翌朝になってもその景色が脳裏に焼き付いて離れなかった。
一方でミャンマーの生活はすこしストレスだった。とてもじゃないけど清潔とは言えない宿に、学生ぶりの水シャワー、たびたび起きる停電と断水に、終わりの見えない蚊との戦い。
「いや、そんなの旅だったら当たり前だし、もっとひどいところもあるよ!」というのも分かる。ただ快適な都会暮らしに慣れてしまった自分にはすこしきつかった。
はじめて旅に出たころは、あえて不便な環境を選んで「これが旅だ!」なんて思いながら楽しんでいたけれど、もう”バックパッカー”ではないらしい。
うん、初心に戻ろう(こんな不便も、数日間いれば慣れてしまうから、本当に不思議だ)。
朝の10時、いつもより若干遅く目覚め、部屋を出る。
陽気な宿のオーナーが、さっそく声をかけてくれる。「おはよう。よく寝れた?今日はどこにいくの?」
特にこれといって何も決めてなかったけど、もうひとつしたいことがあった。それは一日バガンをバイクで周ることだった。
「決めた!今日は走る日!ご飯食べたあとで、半日ぐらいバイク借りてもいい?」
「もちろん!また借りるときは声かけてくれよ!」
太陽が燦々と降り注ぐ中、遺跡群の中を走り抜ける。ここには背の高いビルがなければ、大層なショッピングモールもない。見渡す限りは緑の樹々に、青々とした空、そしてときおりパゴダ。
昨日見た景色はこんなにも広かったんだな。上から見たら一人でも抱えれそうな大きさだったのに。気づけばどこまでも続く一本道にいた。このまま進めばたぶん帰りは夜中になるだろう。
すこし休んでいたところ、すれ違った現地の方が「どこに行くんだ?」と声をかけてくれた。
「特に目的地はないんだけど、ちょっと行けるところまでまっすぐ行ってみようと思って」
「それならこの道をずっとまっすぐ行くといいよ!綺麗にサンセットが見える場所があるんだ」
いつの間にか全身砂だらけだったけど、最高に気持ちよかった。まるであの頃がむしゃらになって遊んでいたときの気持ちが蘇ってきたように。
流れる汗とともに、身体中の毒素もいっしょに出し切ったのか、身体がどこか軽くなったのを感じた。
目の前を流れる川が、これ以上進めないことを教えてくれる。観光客など滅多に来ないであろう川のほとりで、ひとり夕日が沈み始めるのを待った。
たしかに、むかしの旅とは大きく変わった。
学生の頃のように、地球の歩き方片手に宿を探すことはなくなったし、安く値切ってやろうという謎の対抗心もなくなった。おまけに少し汚い安宿や水シャワーに対する抵抗力も格段に下がった。それでもなんでかな、旅自体はやめられないんだよなあ。
子供の頃から相変わらず冒険心はあるし、見たことのないものを見たいという想いは、ずっと心の中で残り続けている。それでいて今は、すこしでもそんなことがこれからの生きる道に繋がれば、と思っている。
旅に出る理由なんて聞かれたってまだわからない。それでもいま旅に出なければいけなかった”なにか”があるのだろう。何かともあれ、いま、猛烈に旅してる。そんな気がした。
つづく。
ミャンマー旅行記①はこちら:深く沈んだ空が、淡く染まり始めるまで【ミャンマー旅行記①】
p.s. 案の定帰りは、真っ暗な夜道のなか、帰ることになりました。治安云々の前に道路は舗装されておらず、地盤が固まっていないところも多々あるので、夜暗くなる前に戻れるようにしましょう。