深く沈んだ空が、淡く染まり始めるまで【ミャンマー旅行記①】

まだ太陽も目覚めていない早朝4時、車内に鳴り響く音楽で目を覚ます。薄っすらと目を開けながら窓の外を確認したが、ここが目的地であるバガンかどうかは分からない。

「バガンに着いたの?」

そうドライバーに聞くと、「イエス!バガン!」と寝起きの自分には十分すぎるぐらいのボリュームで答えてくれた。バックパック2つを前後に背負いながら、とりあえず外に出る。

降りるやいなや「Where are you going!?」と待ち構えていたドライバーたちが声を上げる。ああ、1日の始まりはやけに頭がいたい。

ヤンゴンのバスターミナル

「ちょっと待って、先に水が飲みたいから、少し休ませてくれる?」とドライバーたちをかわしながら、とりあえず座れるところを探し、腰を下ろす。

残り少ないペットボトルの水を飲みながら顔を上げると、気づけば6人ぐらいのドライバーたちに囲まれていた。相変わらず「Where are you going!?」の嵐は収まらない。

ただ彼らも仕事であることに変わらない。僕らが営業するのとさほど変わらないのだ。「ちょっと待って。ちゃんと話すから」と体勢を整える。

うっすらとひびく頭痛とともに、ミャンマー・バガンの旅が始まった。

ヤンゴンからバガンまでの夜行バス

 


 

ドライバーたちとの会話でわかったのは、このバスターミナルから市内までは10分〜20分ぐらいであることと、移動手段がタクシーと馬車の2択あることだった(そもそも馬車があるなんて知らなかった…)。

まだ宿の予約もしてなかったので、陽が上り始めたらネットの繋がるところに行き、宿だけでも確保しようと思ったのだが、彼らはとにかく早く僕を連れて行きたいらしかった。

 

僕「ちょっと待って。どう考えてもまだ早すぎない?WiFiのあるところにいきたいんだ」

ドライバー「中心街にカフェがあるんだ。そこにWiFiがある。今からそこに連れていくよ!」

僕「だから絶対この時間に空いてないでしょ。まだ暗いし」

ド「じゃあ先に遺跡の朝日を見に行くか?」

僕「(お、その手があったか!)それいいね!そうしよう!じゃあさっそく馬車で行こう!」

 

頑なに自分の意見を曲げないときもあれば、いともあっさりと意見を変えてしまうこともある。気分屋だなあなんて思いつつも、旅にはこれぐらいの臨機応変さが大切なのだ。

そこから街灯のない夜道を、ひたすら馬車に揺られながら進んだ。人気のない夜道をおじさんと二人でいるのは怖かったが、星空を眺めていると、そんなことはどうでもよくなった。

あれ、もしかしたら馬車に乗ったの初めてかもしれない(覚えていないだけか?)。象の背中の方が先だったことを考えると、すこしおもしろかった。

シーンと静まり返った夜道に、馬の足音だけがパカパカと聞こえる。そのリズムが妙に心地よく、馬車に揺られながらついウトウトしてしまった。

太陽が完全に昇ってからまた馬車に

馬車に揺られて15分ぐらい経ったころだろうか。半分寝ていた僕の背中をおじさんがたたき起こす。

「さあ、着いたぞ!まだ日の出まで早いから、パゴダの上で寝ときな!」

そう言ってパゴダの管理人らしき人を呼びに行ってくれた。暗闇の茂みの中、一瞬どこにそれがあるのかわからなかったが、上を見上げると、確かにパゴダらしき影が近くに見えた。

パゴダの上で仰向けになって寝るなんて、全く想像してなかったけど、これめちゃくちゃ贅沢なことかもしれない…!

「絶対ここで待っててよ!」、そうおじさんに一言伝え、早足でパゴダに向かった。頭痛も、眠気も、いつの間にかどこかに遠くに飛んでいってしまったみたいだ。

 


 

パゴダの中は思った以上にせまく、バックパック2つ抱えて登るには、すこし無理があった。暗い塔内をライトで照らしながらゆっくりと登る。薄っすらと碧く光る次の入り口に期待を寄せながら。

登った先に見えたのは、無限に広がる星空だった。まだはっきりと見えなかったが、星空に照らされた遺跡群らしき影が、かすかに見えた。

ああ、なんて綺麗な星空なんだろう。ここに来てよかったと心から思えた瞬間だった。

素足で大地を噛みしめながら、ただひたすらぼーっと夜空を眺めた。絶景は誰かと一緒に見たいだなんて思っていたけれど、この景色だけは一人で見れてよかった、なんてことを思う。

深く沈んだ空が淡く染まり始めるまで。それまでは一人この星空を堪能するとしよう。

1時間ほど経ったころ、確かに周りがざわつき始めるのを、全身で感じた。仰向けになっていた身体を起こし、赤く染まり始めた地平線を眺める。

そっと朝日に照らされ、ようやく遺跡群の姿が明らかになる。どこかでニワトリが声高々に鳴いていた。こんなに気持ちの良い朝を迎えるのは、本当に久しぶりだった。

「こんなところにいたのかー!」とつい口を開いてしまう。見渡すは、空、樹々、遺跡だった。

いざ絶景を前にしてしまうと、写真を撮ることを忘れてしまう。いや、正確には撮ることを諦めてしまう。いま目の前に広がる景色と比べると、どうしても写真では伝えきれないと躊躇してしまうのだ。

でももうそんなことは言ってられない。それでもこの景色はどうにかして切り取らないといけない。太陽が昇り切るまで、シャッターを切り続けた。

さっきまでのひんやりとした空気を切り裂くように、暖かい光が差し込む。今日という日が始まった。それでも僕は、すでに今日という日に満足していた。

つづく。

 

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